「忍び寄らない悪、毎日が夏休み」
モキュメンタリー日和②
やぁ、僕はPEOPLE。
11人いる。分身スーパーヒーローさ。
<前回までのPEOPLEは>
ワタラボでイチゴを増やす実験をしてたら培養液を浴びちゃって、自分が増えちゃったってわけ。
それで僕は分身スーパーヒーローPEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーの平和を守ってる。
とは言っても、実を言うとリトルトーキョーは平和そのもの。
この街はアメリカ中から集まってきた日本オタクが作った街で、みんなジャパニメーションや黒沢映画を見ながら、毎週末のコスプレ祭りをエンジョイし、日本のローカルアイドルのインスタライブをチェックしながら、毎日ニコニコ暮らしてる。
そして、この街は「MIFUNE-GUMI」というYAKUZAが仕切っていて、彼らはとんでもなく強くて、しかもGIRIとNINJOに厚い組織なんだ。
イザコザが起きればすぐにヒロユキサナダ似のイケメン若頭が飛んできて全ての問題を即座に解決してしまう。日本刀をブンブン振り回してね。
リトルトーキョーの人々にすっごく人気で、ついたあだ名は「アウトレイジ」
ほとんどヒーローみたいな扱いをうけてる。
だからまぁ、なんというか、この僕、分身ヒーローPEOPLEの出番はぜんぜん無い。こんなに忍者っぽい、アメリカでウケそうな能力なのに。
まともに活動した事と言えば、大きな荷物を背負って、6車線の大通りを渡ろうとしているお婆さんがいたから、分身して、1人が荷物を持ってあげて、残り10人でお婆さんを胴上げしながら運んであげたんだ。
だけど、警察に補導されてしまった。
多分みんなブリーフだったからいけなかったんだろうなぁ……
それ以外は、特に何もしてない。ぜんぜん街を守ってない。守る必要がない。
だから僕の毎日の過ごし方と言えば、
分身Aはラボで研究
分身Bは家事全般
分身Cはひたすら筋トレに励み
分身Dは食べ歩き
分身Eは海外ドラマ4シーズン一気見
分身Fはずーっと寝てた
分身Gは……お婆さんの件でしばらく服役してる。(保釈金が払えなくて)
で、再び融合して一人に戻ってみると……
研究成果や家事はちゃんと出来てるんだけど、記憶が曖昧だ。
筋トレも食べ歩きもさほど体には影響がない。
一気見したドラマの内容も曖昧だ。そしてすっごく寝たはずなのに、普通に疲れてる。
どうやら僕の分身能力は、分身した数だけ、融合後の記憶は薄まってしまうようだ。
つまり、11人に分身して経験したことは、融合後は11分の1に薄まってしまう。
なんだか損した気分だ。
結局、僕は分身できるだけでスーパーパワーも超スピードも念動力も持ってない。近所の大学生が11人集まって出来る程度のことしか、出来ないのだ。
そしていい大人のくせに、防弾ブリーフ一丁。
ヒーローとしては全く認知されてない。
正直、……落ち込んだ。
そんな僕を見かねて、ラボスタッフ達は魚民で飲み会を開いてくれた。
その席で、助手のトモロウ君はこんなことを言った。
「所長、我々が少年時代に思い描いていた立派な大人なんて、今、周りを見渡して、居ますか? 居ませんよね? 大人なんて、みんな夏休みの子供と一緒です。枷が外れただけの、未熟な生き物なんです。ヒーローもそれと似たようなものですよ、きっと」
そして僕が周りを見渡すと、ラボのスタッフ全員がブリーフ一丁で泥酔していた。よく見たらトモロウ君もパンイチだった。彼はトランクス派だった。
なるほどな、僕らは大きな子供なんだ。
そして僕は一人じゃなくて、もちろん物理的にも能力的にも一人じゃないんだけど、僕じゃない誰かが僕を気にかけてくれることが、心の底から嬉しかった。
だから僕もみんなを労いたくて、分身能力を使ってザ・たっちの幽体離脱と、EXILEのぐるぐるするやつを披露して、死ぬほどバカウケした。
とても愉快な夜で、僕は今後も生きていく活力を貰った気がした。僕らの街には大きな事件や巨大な悪なんて無いけれど、素晴らしい仲間がいる。
それは、何よりも欠けがえのないことだと思えた。
そして僕は、出張宴会芸人の仕事を始めた。
僕は「PEOPLE」
11人いる。
分身スーパーコメディアンさ。
次回のPEOPLEは
「お笑いバトル Ride on Tide 2018」
お楽しみに!