「お笑いバトル Ride on Tide 2018」

モキュメンタリー日和③

やぁ、僕はPEOPLE。
11人いる。分身スーパーコメディアンさ。

<前回までのPEOPLEは>
ワタラボでイチゴを増やす実験をしてたら培養液を浴びちゃって、自分が増えちゃったってわけ。
それで僕は分身スーパーコメディアンPEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーの笑顔を守っている。

リトルトーキョーには毎年夏にビックなイベントがある。

それは「お笑いバトル Ride on Tide」

この大会はアメリカでも珍しいジャパニーズMANZAIスタイルで行われる。
この街では日本のお笑いは凄く人気なんだ。

日本のブームとは少しズレがあるかもしれないけど、今こっちでは「あらびき団」の再放送がゴールデンタイムで視聴率60%超え。空前のMANZAIブームだ。
正直、あらびき団は日本語だから何言ってるか全然解らないんだけど、あの、風船に入ってピョンピョン跳ねるおじさん、最高だよね!
それから、キュートンは毎年この時期にリトルトーキョーにやって来てライブをやってくれるんだ。スーパーボール並みに盛り上がる。アジカン最高!

そんなジャパニーズMANZAIが僕らは大好きで、好きが高じて開催されるようになったのがアメリカ人によるMANZAIコンテスト「Ride on Tide (ブームに乗れ!)」さ。

そこに僕は11つ子兄弟として出場した。
11人いるなんて、それだけで笑えるだろう?
1人がボケて、10人が突っ込むんだ。

でも一次審査で落とされた。

審査員には「ボケ役がリンチされてるみたいで可哀想」って言われた。確かに。ボケ役は10回もビンタされて、かなり痛かった。リトルトーキョーの人々はバイオレンスな笑いを求めていない。僕は好きなんだけどなぁ、カミナリ。

それで、いろいろ考えてみた。

例えば、11人の分身による人間ピラミッドMANZAI。組体操ね。
これは、まぁ、全員同じ顔で気持ち悪いから、やめた。
そうなんだよ、顔が同じだから気持ち悪いんだ。
そこで、11人全員に別々の変装をさせて、
性格の設定もそれぞれ個性を付けてみることを思いついた。白雪姫と七人の小人、知ってるだろう? あの、小人みたいな感じさ。のんきとか、ねぼすけとか、物知りとかね。

僕の性格を11分割して、配役はこうなった。

1 いいかげん
2 楽天家
3 パリピ
4 酔っぱらい
5 アニオタ
6 肉好き
7 葱好き
8 ゾンビ好き
9 ゲス
10 研究者
11 怒りんぼ

この配役は実にうまくいった。これまで画一的だった分身達はみんな個性を持つようになり、それぞれ独自の考えも持つようになった。
みんなのキャラクターを生かした台本を書き、毎晩みっちりと稽古して、ラボのみんなに披露したらとても面白いと言ってくれた。確かな手応えもあった。

そして僕は満を持して、Ride on Tide 2018 敗者復活トーナメントに挑んだ。そして見事落選した。
審査員からは「そういうのは劇団のオーディションでやりなさい」と言われた。

僕は酷く憤慨した。一体この審査員は何を言っているんだ、ラボスタッフ達はあんなに素晴らしいと絶賛してくれたのに、全く見る目がないじゃないか。
肉好きとゾンビ好きが同類に見なされてしまったことが失敗だったのだろうか?キャラ分けには成功していたはずなのに……

すると助手のトモロウ君が僕に言った。
「充実ばかり求めると、仕事も休日も全部慌ただしいものになってしまいますよね。それと一緒です。所長はもっと力を抜いて、リラックスするべきだったんです」

はっとした。彼の言う通りだ。僕は今まで如何に自分の能力を全部使いきるか、しか考えていなかった。
もっと純粋に面白おかしいものを求めるなら、分身二人で双子漫才をやった方がずっと話もまとめ易かったのだ……ところが僕は全員の個性を活かす為に台本を複雑にし過ぎて、結果、笑いゼロのミュージカルにしてしまった。
11人もいるのに、誰一人自分達のやりたいことも、やっていることも、客観視できなかったのだ。

そして気付いたときには後の祭り。分身達に芽生えてしまったいびつな個性をリセットすることはもう不可能だった。
そして分身No11、怒りんぼは、二度の落選への怒りを許すことができず、PEOPLEを脱退して、どこかへ行ってしまった。

なんてことだ…… 分身を失うだなんて。

そして僕らは10人で、この挫折から立ち直る為にミュージカル劇団を立ち上げた。

僕は「PEOPLE」

10人になってしまった。

分身スーパー劇団さ。

次回のPEOPLEは

「バイオハザード!怪人Strawberry出現」

お楽しみに!