「バイオハザード!怪人Strawberry出現」

モキュメンタリー日和④

「バイオハザード!怪人Strawberry出現」

やぁ、僕はPEOPLE。
10人いる。分身スーパー劇団さ。

<前回までのPEOPLEは>
ワタラボでイチゴを増やす実験をしてたら培養液を浴びちゃって、自分が増えちゃったってわけ。
それで僕は分身スーパー劇団PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーの演芸を守っている。

劇団を始めた僕ら10人が、最初に選んだ演目はもちろん、美内すずえ先生の名著にして世界で最も偉大な演劇マンガ「ガラスの仮面」だ。

前回の反省をちゃんと踏まえて、今回は気合いを入れすぎずにリラックスして台本を考えてみた。
そもそも男の僕が分身しているのだから、劇団PEOPLEは男しかいない。
そこを逆手に取って、男だけで演じる「ガラスの仮面」を、面白おぞましく、失笑を買うことを目的に台本を書いてみたのだ。

これが、なんと、ウケた。

僕らはあっと言う間に、リトルトーキョーの「リトル歌舞伎町」というオカマバーで、毎週末に昼夜二公演もやらせてもらえるくらい人気になった。ファンは基本的に髭の濃いオッサンばっかりだったが、みんな口を揃えて「恐ろしい子……‼️」と称賛してくれた。
僕はようやく自分の居場所を見つけた気がした。それが素直に嬉しかった。

だけど、おっかないこともあった。
オカマバー「リトル歌舞伎町」はシノギの15%をMIFUNE-GUMIに納めていて、だから当然、時々YAKUZAが店に顔を見せに来る。もちろんヒロユキサナダ似のイケメン若頭、ヤクザヒーローの「アウトレイジ」もやって来た。

僕がサインを貰いたくてモジモジしていると、アウトレイジは気を利かせて近寄ってきてくれて、僕の耳元で静かにこう言った。
「その力を妙なことに使ったら、お前の分身の指を順番に切り刻んでやる。全部で何本あるか今のうちからよく数えておけ」
シビれた。脅し文句がめちゃカッコいい。マジでダークヒーローって感じ。彼は独自の情報網から僕の能力に既に気づいていて、見張らせていたらしい。すげぇイケてる。ゴッサムシティーって感じだ。
そんな毎日。ヒャッハー!

街は相変わらず僕の助けを必要としていないし、僕は僕で幸せだし、このまま特になんの問題もなく、僕はリトルトーキョー ゴールデンアロー賞を夢見て稽古に励む日々が続くんだろうな、なんて思い始めていた矢先、妙な事件が起きた。

リトル歌舞伎町の向かいのはなまるうどんが、巨大な植物のツタのようなものに絡まれて、ドアが開かなくなってしまったのだ。たった一晩の内に。

翌日にはその隣の丸亀製麺もツタに絡まれていた。
更に翌日は山田うどんも、うどんのウエストも、イタリアンみかづきもだ。
やけにうどん屋ばかりがツタに絡まれるので蕎麦屋の陰謀かと思われたが、イタリアンみかづきの店主が「うちはうどんじゃない」と言い張って、そもそもみかづきがいったい何なのかをみんなで議論するうちにリトルトーキョー中がツタまみれになってしまった。
しかも、ツタは奇妙な緑色の果実を実らせ、日に日に大きくなっていく。一番最初に実った果実は既に軽自動車くらいのサイズになっていた。

果実の表面にはニキビみたいなブツブツがいっぱいあって、そのブツブツのひとつひとつから毛が生えている。すごくキモい。果たしてこんなに気持ち悪い物体が地球上にあるだろうか?
僕はなんかすごく嫌な予感がして、その気持ち悪いアバタの果実の表面を削ってラボで調べてみたら……イチゴだった。

すぐにピンと来た。うちのラボで育ててた、分身イチゴだ!いつの間にか野生化して、しかも巨大化までしている!
イチゴのツタは水道管やアスファルトを破壊し、ビルもハイウェイも締め上げ、都市機能を破壊しながらどんどん成長している。
このイチゴの元凶が僕の研究によるものだとアウトレイジにバレたら、僕の指が全部ぶった切られてしまう。

僕はすぐにラボのスタッフを全員集めて、巨大イチゴの名前を考える会議を開いた。
何はおいても名前がなければ始まらない。それも、出来るだけ凶悪で、戦いがいのある名前がいい。
様々な意見が飛び交った。スタッフ全員が、分身ヒーローPEOPLEの活躍を信じて日夜決めポーズを考えていた頃の興奮と熱意を思い出していた。
そして「ビオランテ」という非常に凶暴そうな名前を思い付いたけれど既に「ゴジラVSビオランテ」という作品があったと知り愕然としているうちに

リトルトーキョー中の巨大イチゴは真っ赤に色づいてしまった。

これから一体、どんな悲惨なことが巻き起こるのか、誰にも想像がつかなかった。
あのブツブツからちっちゃいオッサンがわらわら出てきてみんなの足の小指を金槌で叩きまくるかもしれない。
あのブツブツは全て瀕死だけどなかなか死なないセミになって、街中で蝉ファイナルし続けるかもしれない。
なんということだ。この世の終わりだ。
さよならリトルトーキョー!さよならぼくの愛した人々!さよなら!さよなら!

それからほどなくして、イチゴは全て収穫され、リトルトーキョーはアメリカ中のイチゴジャム生産地のナンバーワンになり、ジャンボイチゴの街として知られるようになった。

僕らはラボで、イチゴジャムによく合うスコーンを開発して、この空前のイチゴブームに見事に乗った。
他にも商魂たくましい人々が沢山いて、リトルトーキョーはあっという間に復興した。怪我人もゼロだった。

後日、一つだけ刈り損ねたら巨大イチゴのブツブツから芽が出て、その様子があんまりにも気持ち悪いので #怪人ストロベリー としてインスタグラムを賑わせたが、すぐにみんな忘れていった。

今回は、何をやったのかよく解らなかった。

イチゴジャムは甘くて美味しいけど、あれは全部砂糖の甘さで、イチゴ自体は全然甘くない。「あまおう」とか偉そうなイチゴもあるけど、絶対にバナナの方が甘い。それなのに人々はイチゴを持て囃す意味が解らない。

その気持ちとよく似ていた……つまりなんていうか、今回はよくわかんない回だった。
いや、いつもよくわかんない回な気もする。うーん、どうなんだろう。

すると助手のトモロウ君が言った。
「イチゴはね、赤いから、いいんですよ」

ぜんぜん意味が解んないけど、昔、クロエも同じことを言っていた気がした……

僕は「PEOPLE」

指は無事、100本ある。

分身スーパースコーン屋さ。

次回のPEOPLEは

「恐怖、Dance Lesson 地獄」

お楽しみに!