「恐怖、Dance Lesson 地獄」
モキュメンタリー日和⑤※前回分がなんか先週金曜日に更新されませんでした。すいません。
「恐怖、Dance Lesson 地獄」
やぁ、僕はPEOPLE。
10人いる。分身スーパースコーン屋さ。
<前回までのPEOPLEは>
ワタラボでイチゴを増やす実験をしてたのをうっかり忘れてて、街は巨大イチゴだらけに。そして僕は分身スーパースコーン屋PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーのおやつタイムを守っている。
スコーン屋に転職して思ったのは、スコーンて食べるとすごく口の中がモサモサするってことだ。
口の中の唾液が全部持ってかれる。そもそもドリンクが必要不可欠な食べ物なんだ。
だから紅茶をセットで売ったり、しっとり仕上げた生クリームをのせたりして、なんとかモサモサしないよう創意工夫した。
そのかいあってか、PEOPLEスコーンの生地はサックサクなのにしっとり、奇跡のスコーン!と評価され、食べログは一時的に4.1まで星がついた。
商売が軌道に乗ってからは移動販売も始めた。
5人がラボでスコーンの生地を練り、残りの5人はそれぞれ車に乗って、オフィス街で販売する。
この商法で一番売り上げが良かったのは、意外にも分身No.9のゲスだった。ランダムにハート型のスコーンを混ぜて売ったのがOLにウケたらしい。
生地やセットメニューの開発は分身No.10の研究者が嬉々として取り組んでいた。スコーン王に、彼はなる、らしい。
だからスコーン事業はその二人に任せて、残りの8人は別のことをやることにした。
正直、これまでにコメディアン、劇団員、スコーン屋といろいろやって来たが、どれも下北沢っぽい仕事ばかりだった。古着屋で働いたらコンプリートだ。
でもやっぱり僕は、このリトルトーキョーのヒーローになりたい。分身能力をもっと正義の為に役立てたいんだ。
そして僕は、これまでの成果を振り返ってみて、あることに気が付いた。
それは、分身にバラバラなことをやらせると一人に戻った時に経験値は均一化されてしまうが、全員に同じ作業をさせると、一人に戻ったときに非常に高い熟練度が得られる、ということだ。
劇団もそうだ。 一人一人の演技は平凡だったが、一つの台本に沿って意思共有することで、全体の台本熟読度や、全員で協力し合うパートは異様にレベルが高かった。
スコーン屋を始めた時も、何よりも好評だったのは生地だ。それは5人が同時に開発を行ったからだ。
僕はこの特性を生かしてヒーローとしての身体能力を磨くべく、空手道場に入門したが、すぐ追い出されてしまった。
「8人分の月謝を払えないなら出ていけ」と言われたのだ。確かに、こちらは元々1人でも、向こうは8人に教えなければいけないのだから、手間は8倍だ。
同じ理由で柔道、ボクシング、コマンドサンボ、システマの道場から追い出された。
しかし僕は諦めなかった。
要は体を動かすということに慣れるのが大事なのだ。別に格闘技でなくたっていい。僕は何だって他人の八倍のスピードで習得できるのだから。
で、僕はストリートダンサー達にダンスを教えてもらうことにした。
僕は瞬く間に上達していった。
ストリートダンサー達も僕の上達ぶりを絶賛した。「天才的な成長スピードだ」と。
そしていつも何かに踊らされているように受動的な日々を過ごしていた僕だったが、これからは能動的に、自分から踊っていこう、そう、人生はダンスなのだ!自分の人生をちゃんとステップしていこう!と、よく解んない悟りを開くほどダンスにのめり込んでいった。
そしてある日、僕のレッスン風景を見学に来た助手のトモロウ君が、こう言った。
「所長、EXILEのぐるぐるするやつ、まだやってたんですね。すごく上手になりましたね。上手すぎて、もうあんまり笑えませんね」
……そして僕はダンスをやめた。
そう、結局は、最初となんにも変わっていない。
ヒーローを目指していた筈なのに、またEXILEに辿り着いてしまった。文字通り同じところをぐるぐるしているだけだったのだ。
そして僕は、なんだか全てが馬鹿馬鹿しくなって、がっくりきた。
僕は「PEOPLE」
8人いる。
今は特に何もしてない。強いて言うなら引きこもりだ。
次回のPEOPLEは
「気がつけばHuluばっかり見てる俺バカみたい」
お楽しみに!