「気がつけばHuluばっかり見てる俺バカみたい」

モキュメンタリー日和⑥

やぁ、僕はPEOPLE。
8人いる。ひきこもりさ。

<前回までのPEOPLEは>
いろいろ頑張ったんだけど、なんかめちゃくちゃガックリ来ちゃった僕は、分身スーパーひきこもりPEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーの片隅にある自宅の平和を守っている。

 

人間、時には休まなくちゃダメだ。
ヒーローだってそうさ。あのピタピタのタイツが急に嫌になって、ユルユルのスウェットを履いてXLのTシャツを着てヒップホップを聴く時だってある。それと一緒さ。少し頑張り過ぎた。

僕はトルティーヤチップスとタコスソースとビールとカマンベールチーズとワインといぶりがっこと焼酎をしこたま買ってきて、それらをつまみながらHuluで気になっていたドラマを一気見していった。

恋愛ドラマの中の恋人達は飽きもせずくっついたり離れたりを繰り返し
ヒーローはみんな身内に潜むラスボスに全く気付かないアホばっかりで
ホラーものは必ず誰かが定番のミスをやらかして、街はゾンビに襲撃され続けた。
その展開が解りきっているのに、僕は点滴でブドウ糖を注射されるみたいにただただドラマを見続けた。

そして時々、真夜中にコンビニへ行ってコーラとカップラーメンを買った。僕が行く時間帯は何故かいつもミニーリパートンのラヴィンユーが流れていた。なんてゆうんだっけ、歌がなくって、安っぽいエレクトーンみたいな音色で演奏されているダサいBGM。あぁいうやつ。チープさがやけに物悲しかった。
(どうでもいいけどセブンイレブンてやたらいつもデイドリームビリーバー流れてる気がする。)

 

そしてまた部屋に戻ってきて、薄暗い部屋の中を見渡す。
残りの7人の僕が背中を丸めて膝を抱え、LOSTのシーズン3を見ている。最悪な光景だった。
「おい、ラーメン買ってきたぞ」7人の背中に呼び掛ける。こんな暮らしをもう一週間も続けているのか……はぁ、…なんだかなぁ。「おい、ラーメン買ってきたって言ってんだろ!」……返事がない。
肩を叩いてみても反応がない。

一人の肩をぐいと引っ張って「おいこら!」と振り向かせると、ぎょっとした。 誰だこいつ?

顔が違う。僕の顔じゃない。他の分身達も僕じゃない。誰だお前ら?

家を間違えたりなんかしてない。こいつらみんな勝手に上がり込んできたのか? いや、すぐに違うと解った。

全員知らない顔だが、全員が同じ顔をしている。そして分身だからこそ解ることだが、みんな身体は確かに僕のものだ。顔だけが違う。しかもみんな僕を見ているようだが焦点は定まらず、呼びかけにも応えず、ずっと何かをブツブツと呟いている。

「あ、よいとせのこらせのよいとせのこらせ…  あ、よいとせのこらせのよいとせのこらせ… 」

なんだろう、何かの呪文のようにも聞こえる。でもよく見ると、この顔、なんかどっかで見覚えがあるんだよなぁ。うう、どっかで見たことあるんだけど、思い出せない。 なんか、元衆議院議員の鈴木宗夫さんにスゴく似てるんだけど、ちょっと違う、誰だっけなぁこの顔!

考え込んでいると、分身の一人がおもむろに立ち上がった。彼の髪の毛が、まるで透明化していくみたいにどんどん薄くなって、禿げ上がっていく。そして完全にハゲになってしまうと、今度は手足をタコの様にくねらせながら横移動を始めた。うわキモい! うわ、ハゲの両隣の分身も立ち上がった!まずいぞ!
何かのウイルスや、分身能力の副作用か、あるいは遺伝子の突然変異か、理由は解らないがこの症状は進行し続けている!

僕はまだ剥げていない分身達の顔をバッチバッチ叩いた。「おい!起きろ!お前ら、知らないおっちゃんになってるぞ!顔が、なんか知らないおっちゃんになってるぞ!」わずかに反応がある。近くにあった金だらいを頭の上に落として気絶させると、おお!顔が徐々に戻っていく。僕は次から次へと金だらいを叩き落し、分身達を失神させていった。

しかし 頭が禿げ上がった一名に関してはどれだけぶっ叩いても元に戻らなかった。ニコニコしながら妙なダンス?を踊り続けている。取りあえず彼はリビングに残したまま、顔が元に戻った分身達と寝室へ移動して、この謎の症状について話しあった。
「いったい何がおこったんだ?LOSTのシーズン2ラストくらいから、まったく記憶がない」
「なんかずっと頭の中にキダ・タローの曲が流れてるんだけど、なんてタイトルだっけこの曲?」
「お前もか!?僕もだ、ずっとアホ!アホ!ってコーラスが聴こえる!」

原因について色々と考えを巡らせてみたが、全く見当がつかない。ラボのスタッフを召集して、調べるしかない。
僕らは剥げた分身を縛り上げて拘束し、ラボへ担ぎ込んで徹底的に調べあげた。

そして、ハゲを隅から隅まで調べ上げて出揃った様々な検査データから結果が判明した。

「結論から言うと、これはサカタ化と呼ばれる現象です。
特定の映像サブリミナルと音楽サブリミナル、二つを長期間浴び続けると人間の血中のアフォノ酸が上昇し、血液型はアフォノサ型に変異、同時に身体は徐々にハゲのオッサンに変身していきます。知能は著しく低下し、おバカさんになってしまいます。末期には骨盤が変形して歩行にも支障をきたします。横移動しか出来なくなるんです。そして完全にサカタ化した人間を元に戻すことは、出来ません。」

ラボは騒然とした。ウイルスや遺伝異常ではなく、サブリミナル効果だと!?
しかもサカタ化を引き起こす特定の映像と音楽は、何者かが意図的に僕の家のネットワーク(Hulu)に侵入し、海外ドラマの映像に混ぜて発信され続けていたのだ!一週間もかけて!

トモロウ君は慎重な面持ちで言った。
「つまり、これは所長をアホなオッサンにする為に誰かが仕組んだ罠です。所長は、謎の敵に、命を狙われています」

来たこれ!

僕はPEOPLE!!

7人いる!

何者かに命を狙われているスーパーニート!!

次回のPEOPLEは

「友郎青年」

お楽しみに!