「友郎青年」

モキュメンタリー日和⑦

やぁ、僕はPEOPLE。
7人いる。命を狙われている。

<前回までのPEOPLEは>
誰かが僕を暗殺しようとして、分身の一人をアホの坂田にしてしまった!だから僕は、分身スーパー要警護対象者PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーで、自分の命を守っている。

何者かに狙われているかもしれないと判明した途端、事態は急展開を見せた————分身の一人が白昼堂々襲われたのだ。

夜間はもちろん単独での外出を避けていたが、まさか大胆にも昼間に襲われるとは思っても見なかった。それも、大通りを歩いている最中おもむろに、背後から臀部にズドン、そう、千年殺しだ。攻撃を受けた分身はもちろん今後千年は自力で立ち上がることは出来ないと診断されて再起不能。あっという間のことで犯人の顔も見えなかったそうだ。

僕の能力は対暗殺向きの能力だと思っていたけど、正直、僕の分身はまだ一人も死んだことが無い。もしかしたら分身の一人が殺されたら他の分身も一斉に死んでしまう可能性だってある。そう考えたら奇襲が怖くて一歩も外に出れなかった。しかし犯人の目的が僕の殺害なら、千年殺しとかじゃなくもっと致死率の高い鋭利な何かで僕の肛門をズドンした筈だ。現状、それをしていないということは「僕を生かしたまま再起不能にすること」が犯人の目的なのだ。

やはり動機は怨恨だろうか?

もしかしたら僕が過去に行った実験でドカンしてしまった誰かが半身不随で生き残っていて、その恋人か親族が僕に同じ苦しみをズバンしようとしているのかもしれない。あるいは何かの実験時にドカァァーンしてしまった際のゴゴゴゴの後遺症で、僕はこれからドゥシャシャシャして行くのかもしれない。

「もしかしたら、ワタラボの実験に巻き込まれてカエルに変身してしまった人物が、その跳躍力で千年殺しを放ってあなたの分身の肛門を破壊したのかもしれません!いずれにせよ分身達の肛門はまだ狙われる可能性があります!」助手のトモロウ君はそう言った。イチゴの件を思い返すと全ての可能性があり得る気がして、僕はガタガタ震えながら夜鍋して分身6人のコスチューム(ブリーフ)の尻に鉄板を縫い付けた。

そうして僕らは鉄のパンツを履き、昼も夜もなるべく集団行動を心掛けたが、それも既に犯人の術中だった。

ブリーフの鉄部分が思いの外冷たくて、お腹が冷えてしまったのだ。分身全員でトイレに駆け込んだが、ラボの男子トイレの個室は5個しかなかった。
一人だけ、仕方なく別フロアの男子トイレに入った分身が、ヤラれた。

彼がトイレの個室に入っている間、犯人はこの世のものとも思えぬ酷い罵声を浴びせ続けた。

「うわ、だれかウンコしてるー!」「超くさーい!」「学校でウンコすんなよー!」「ここ入ってんのだれ?こいつだれ?ウンコマンだれ!?」「ピープルじゃね?あいつさっき授業終わった途端に教室出てったしー!」「うわー、くさー、ピープルくさー、ウンコマンくさー!」「やめなよ、ウンコマンが可哀想だよ、静かにしてあげようよ、そしたらブリブリきこえてくるから」「うわー!えんがちょー!」

そんな、小学生だったら確実に不登校になりそうな呪いの呪文を放課後まで浴び続け、分身は心を病み、もう二度とトイレから出られない身体になってしまった。

なんという卑劣な手をつかう犯人だろうか。僕は怒りに震えた。こいつは絶対に、なんとしても捕まえてやる!
そう決意すると、僕はさっそくワタラボの全職員をロビーに集めて、言い放った。「犯人はこの中にいる!」

お決まりな感じでラボのスタッフ達はワイワイガヤガヤしたが、僕は続けた。

「まず、PEOPLE 引きこもりの原因となる発言をした人物、
そして我が家のHulu登録をしてくれて、サカタ化のサブリミナルを仕掛けた人物、
さらに暗殺行為をほのめかし、鉄のパンツを履くようしむけて我々をトイレに向かわせた人物、

それが犯人だ! そう、トモロウ君、君だ!」ドゥキャァァーーンヌ!!

 

トモロウ君はバタバタと狼狽えながら反論した。「それは状況証拠だに過ぎない、物的証拠がなにもないぞ!」

僕は引き続きトモロウ青年に向かってズドドドーンしながら言った。「ふっふっふ、物的証拠なんて、なくてもいいんだよ。なぜならこの物語の登場人物はほとんど、君と僕しかいない!僕がやたら分身するせいでいろいろ登場してるみたいに見えるけど、実はメインキャラクターは二人しか登場してないのだよ!あと、もう尺が無いから、犯人は君ってことでヨロシク!」

「うわぁーっ!」トモロウ青年は頭を抱え、ガックリと膝をついた。「そ、そうです、僕が、僕がやりましたー!!うわぁぁーん!」実にスムーズな流れだ。そして僕はうなだれるトモロウ青年の肩に手を起き、フ船越さんの様に厳しく優しく言った。
「ほんの少しだけ、ムショで臭い飯食って来いよ。お勤めが済んだら、トモロウボーイ、笑って会おうぜ」渾身の出来だったと思う。火サスなんてほとんど見たことないが、多分バッチリ決まったと思う。

しかしトモロウボーイの反応は不可解だった。クックッと肩で笑い、俯いた口元にも不適な笑みを浮かべている。

「僕はあのお方に頼まれてやっただけだ。お前はまだ、命を狙われているんだ!まだまだ何本もの千年殺しがお前の肛門を狙っている!せいぜいケツの穴を引き締めることだな!くっくっく!」そしてトモロウボーイは仰け反って笑う。「あぁ〜はっはっはっはっは!」

な、なんだとぉぉぉ!? トモロウを操っていた黒幕とは、一体誰なんだ!? 今んとこ他の登場人物といったらアウトレイジとアレしかいないが……一体誰なんだ!? 誰が黒幕なんだぁぁぁぁぁ!!!

 

僕は「PEOPLE」

5人いる。

分身スーパー探偵だ。

 

次回のPEOPLEは

「黒幕卿クロエ」

お楽しみに!