「探偵ナイトサあーフ」
モキュメンタリー日和⑨
「探偵ナイトサあーフ」
やぁ、僕はPEOPLE。
4人いるけど年金は一人前さ!
<前回までのPEOPLEは>
僕の元フィアンセの暗黒卿クロエは巨大なジGタンクを送り込んでラボを粉々に破壊してしまった。これは彼女からの宣戦布告だ。僕は、分身スーパー被災者PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーで彼女の行方を追っている。
ジGタンクがド派手にラボをブッ壊したせいで夜が明ける頃にはリトルトーキョー中が昨夜の倒壊事件を知ることとなり、当然警察とアウトレイジがやって来た。
トモロウ君が殺人未遂でムショ入りしている上に元うちの職員がラボ倒壊の真犯人というのはあまりにも印象が悪いので、クロエについてはシラを切り通したが、彼らはまだかなり僕を疑っているみたいだ。
おおっぴらにクロエ捜索をすることは難しくなった。
そこで僕は「探偵ナイトサあーフ」に手紙を出すことにした。
探偵ナイトサあーフはリトルトーキョーの大人気TV番組で、人気タレントのタム・ケン、タム・ヒロ、タケ・ヤマ、ヤス・イシなどの個性的な面々が探偵に扮して、人探し、噂の究明、苦手の克服など幅広い相談を請け負ってくれる。依頼の解決率はなんと99パーセント。
局長のリューチャロ・カミオカ氏は己の信じた正義を貫く傑物で、過去に色々と行き過ぎた調査をしたせいで警察とは犬猿の仲だ。「その権力に屈しない姿勢が逆にウケる」などと言われて結構人気があり、警察に頼むべき依頼をあえてナイトサあーフに持ち込む視聴者もいるほどだ。
警察に知られずにクロエを探すには打って付けの番組、というわけだ。
僕は手紙をしたためた。
〈失踪した元フィアンセを探しています。彼女はクワガタとかお爺ちゃんとかを大きくしちゃうタイプのマッドサイエンティストです。探偵さん、どうか彼女を探し出してもらえないでしょうか〉
探偵ナイトサあーフはすぐに返事をくれた。
〈PEOPLE様、ご依頼ありがとうございます。PEOPLE様から頂いたご依頼について是非確認させて頂きたいことがございます。どうぞ当探偵事務所へお越し下さい〉
ナイトサあーフは毎週欠かさず見ているが、手紙を送ったのは初めてなのでこれがどういう意味なのか解らない。
困惑しながら指定された場所、リトルトーキョーのミナミ区、アサヒホーソー本社ビルへ出向くと、なんと番組の顔役でもあるリューチャロ・カミオカ氏が直接出迎えてくれた。彼は僕を見るなり近寄ってきて硬い握手を交わし、ミナミ弁で早口に捲し立てた。
「おおきにおおきに、ホンマよお来てくれたなぁ!あんたあれやろ、分身パンツマンやろ?
うちの番組にアンタの調査依頼が来ててん。複数人おるけど全員全く同じ顔で、全員パンイチの集団がよお目撃されとるゆうて。
ほんで調査進めるうちにアンタやってことはだいたい判明して、ほな本人確認しよか思てたらアンタから依頼が来たわけやが……自分ホンマええときに来たで」
そしてリューチェル氏はニヤリと笑った。
「実はな、なんや今、リトルトーキョー各地で色々なもんがごっつ大きなってんねん。
初めは普通の依頼やってん。“うちのチワワが大型犬ぐらいでっかなってホンマ怖いです、なんの病気でしょうか?”って相談やってんけどな、調査行ってみたらホンマに大型犬くらいデカいチワワがおんねん。ごっつキモかったで、目ん玉むちゃくちゃデカいねん。テニスボールぐらいあんねん。あれ見た後だとうちのハスキー犬めっちゃ目ん玉ちっちゃー!思たわ。バランスキモいねん。
ほんで、これオモロイやんかっちゅうことで先々週、放送してんけど、ほしたらそれ見て“うちで飼ってる子猫も急にトラぐらいでっかなって困ってますぅー”ゆう視聴者が出てきてな、これもホンマデカかったで。
遠くから見たらまあ子猫そのまんまやし、可愛らしねんけど、やっぱ近くで見るとアカンわ。目ん玉めっちゃデカいねん。あと足めっちゃ短いし頭むっちゃデカいねん。バランスキモいねん。そんでそいつカラス捕まえんねんで?スズメちゃうで?依頼主の家の庭、真っ黒い羽だらけで、グロかったわぁ。これはさすがにテレビに映せへんやろゆうことで困っとったら…
ついにこないだ、クマが出るゆうて調べにいってみたら、これがなんとネズミやってん。
軽自動車サイズのネズミやで?ヤバイやろ?多分ドブネズミなんやろな、めっちゃくっさいねん。ほんでソイツな、ネズミのくせに野良犬捕まえて食べててんねんで。あれはもうただのグロや。なによりキモいのがめっちゃ目ん玉デカいねん。あれに比べたら本物のクマ目ん玉めっちゃちっちゃー思うわ、ビビるで?バランスキモいねん。
ほんでピンと来たわ。こないだイチゴおっきなったやろ?あれと同じことがこの街のいろんなとこで起きてんねん。そこへあんたの依頼や。もう解るやろ」
僕もすぐ合点が行った。「僕の元フィアンセの仕業ですね…」
そして僕はリューチェル氏と番組スタッフに全てを打ち明け、我々は以下のような結論に至った。
クロエは過去にクワガタを巨大化した技術を使ってイチゴを巨大化した。
続いて実験対象を昆虫や植物から哺乳類に変えたが、哺乳類の巨大化は難しかったのか最初はチワワを大型犬サイズまで巨大化することしか出来なかった。
しかし次は子猫をトラサイズまで巨大化することに成功。そうして巨大化率を徐々に上げながら先週はネズミを軽自動車サイズに巨大化。
そしてその集大成が昨夜の巨大おじいちゃん、ジGタンクだ。
他にも我々が知らないだけで、既に様々な動物が巨大化されてしまった可能性もある。
「あんたの元フィアンセ、ゴリラ巨大化してへんやろな?ヤバいんちゃう?著作権的に。ハリウッド的に」
「それゆうたらトカゲとかイグアナも巨大化したらアカンやん、スピルバーグ的に」
「東宝にもゴジラがおるで?」
「その前におじいちゃんおっきくした時点で円谷的にはアウトやろ」
「そこはバンダイなんちゃうん?おじいちゃん半分キャタピラやってんで?ジGタンクてもう完全にガ◯タンクやん、アカンやん、バンダイに怒る権利あるわそれ」
「それゆうたらそもそも大仏さんの著作権とかどうなん?ウルトラマンて大仏さんのパクりやん?どっちもおっきいおっさんやん。そこんとこ大仏さんずっと怒ってるで」
「大仏さんの著作権はもう期限切れやろ。奈良、鎌倉時代やで?それやったらオジンガーも仲間に入れたってや」
リューチャロ氏と全探偵、そして全スタッフが真剣に意見を交わしあった。白熱する会議の中、僕はふと気になったことを聞いてみた。
「すいません、そう言えば、巨大ネズミはどうなったんですか?捕獲したんですか?」
「いや、捕獲依頼ではなかったから、逃がしてんけど。てゆうか逃げられたわ」
「え、やばくないですか?」
「だってキモいやろ、目ん玉めっちゃデカいねんで?バランスボールくらいあんねんで?」
「ネズミってたしか、繁殖力すごく高いんですよね?ジョジョの4部で言ってましたけど」
「いやいや、一匹だけおっきなってもしゃーないやろ。つがいやったらまだしも」
「あ、なるほど!言われてみればそうですね!」
「そんなん言うてる暇があったらアンタも、巨大化したら困るものなんかあるやろ、出しいや」
そこから我々は行き着くところまでマニアックな大喜利を続け、てっぺんを回ったところでリューチャロ氏が「ちょっとマニアック過ぎて放送には使えんな、解散」と言い放ち、僕らは解散した。
僕ら4人(PEOPLE)は少し寒くなり始めた秋の夜風の中をとぼとぼと歩いて帰路についた。
ミナミに来たのはずいぶん久しぶりだった。ここへ最後に来たのは、まだクロエに出会ったばかりの頃だった。この路地をよく通ったのを覚えている。サラリーマンや学生でガヤガヤとしていて、そうそう、ビールのポスターの女の子、あの頃から張り替えられていなくてボロボロだけど、あのときのままだ。
当時のクロエはたしかこの辺に住んでいるのよと話してたっけ。
治安が良いとは言えないが、一度好きになるとなかなか離れられない、そんな街だ。「二度“ジ”ケ禁止」の張り紙、豹柄のトップスにゼブラタイツのおばはん、そうそう、寒くなるとあの角の自動販売機と自動販売機の間に入って暖をとっているおっちゃんが居たっけなぁ。
…おや?今日もあのおっちゃんが挟まってるみたいだぞ? さっきの会議で余ったワンカップでもプレゼントしてあげようかな…
そう思って自販機の隙間へワンカップを差し出すと、不意に手首をガブリと噛まれた。黒い、臭い、熊のように巨大な、ネズミに。
「でたーーーーー!!!ぎゃぁーーーーー!!!」
噛まれた分身は卒倒し、残り三人は心底縮み上がってこの世のものとも思えぬ叫び声を上げた。その声に驚いたのか、ネズミは自販機の隙間から飛び出し、大通りへ飛び出していく。するとそこかしこの影の中から、巨大な影が続々と続いて飛び出して、ネズミの跡をついていく。そして大通りからは次々に人々の悲鳴が響いてきた。
ミナミのネオンの中を駆け抜けていくネズミは、1、2、3、4、5…
ものすごくいっぱいいる。
僕はPEOPLE!
残り3人!
分身スーパー投稿者さ!
次回のPEOPLEは
「必殺!PRAYボール!」
お楽しみに!