「獄中 To Do List」

モキュメンタリー日和⑫

やぁ、僕はPEOPLE
ようやくファイナル。今年の駄文、今年のうちに!

<前回までのPEOPLEは>
全ての分身を失いながら最後の黒幕を倒したPEOPLEだったが、街はサカタゾンビに埋め尽くされてしまった。
もうこの際バッドエンドだって構うものか!さぁ終わらせろ!

ゾンビから街を救うヒントを探す為に、僕はNetflixでウォーキングデッドをファーストシーズンから全部見直してみた。でも解ったことは特に無かった。あのドラマでは多分永久にゾンビが撲滅されることは無いだろう。そういうドラマなのだ。多分アメリカに火葬文化が根付くまで何シーズンでも続くだろう。

しかし希望は見えた。刑務所だ。刑務所ならばきっとウォーキングデッドの正解と同様に、生き残った人達の最後の砦に成りうるだろう。

僕は命からがら、なんとかかんとかリトルトーキョー刑務所までたどり着き、その門を叩いた。
「ごめんくださーい!誰かいたら開けてくださーい!」
しばらく門を叩いていると、通用口のドアが空いて、深々とフードを被り、ローブを身に纏った人物が出てきた。「待っていましたよ。必ず来ると思っていました」声色から男のようだ。聞き覚えのある声だ。
「もしや君は!」
「後にしましょう、さぁ、急いで中へ」
フードの男は僕を中へ通すとすぐに通用口を閉じた。

刑務所の中ではサカタゾンビから逃げ延びた人々が100名ほど、身を寄せあって暮らしていた。
みんな割り当てられた当番にしたがって定期的に外に出て必要な食料や家電を回収しているようで、刑務所の敷地内は意外にもバブリーな雰囲気だった。
子供は全員ニンテンドースイッチを持っていたし、VRモニターでゲームしている子供もいた。各グループには最新のMacBook、パワースチームオーブン、大容量冷蔵庫、全自動の洗濯乾燥機が割り当てられ、共同トイレは全て高性能ウォシュレット付き、洗面台にはイオン的なものが出るドライヤーが完備され、談話室には本格的な映画用プロジェクター、大浴場は24時間解放されていた。
サカタゾンビは人以外襲わないので近隣で家畜を放牧したり、農作物もこれから育て始めるみたいで食事にも事欠かないらしかった。すごく暮らしやすそうだった。

刑務所の統治者は元服役囚らしい。僕はフードの男に連れられて刑務所内を隅々まで案内された後、統治者の元に連れていかれた。
統治者の部屋は元刑務所長の部屋で、空調が抜群に快適で、なんかすごく良い柔軟剤みたいな匂いがした。統治者は僕に背を向けて、フっカフカそうな所長イスに座って窓の外を見ている。

「PEOPLE KING様、やつを連れてきました」
フードの男はそう言って、僕を無理矢理膝ま付かせた。
「PEOPLE KING様? なんだよそのダサい名前は?僕だったらもっと良い名前を考えるね。て言うかフード被ってる君、トモロウ君だろ?確かまだ服役している筈だし、最初に声を聞いたときにすぐ解ったぞ!そんで誰だよ、そこのイスに座ってるのは?どうせクロエだろ?あいつも刑務所送りになったはずだぞ?」僕がまくしたてると、所長イスの男が言った。
「彼女は護送される前に留置所でサカタゾンビの群れに襲われたよ。残念なことだ」
ひどく聞き覚えのある声だった。てゆうか僕の声だ。そんな筈はない、前回再登場したおこりんぼで全員の行方は解った筈だ。もう残っていない筈なのに。
「そんなはずがない、と思っているんだろう?」所長イスの男は僕の心を見透かすように言った。そして静かに、嬉々とした声で続ける。
「おこりんぼ、B、C、花男、初代サカタゾンビ、みんなサカタゾンビになった。そしてスコーン屋の二人も、ジGタンクの介護者も二日ほど前にサカタゾンビ化が確認された。
ヒュージラットに襲われたやつと、そこにいるトモロウ君に千年殺しされたやつが入院していた病院もバリケードを作ってなんとか凌いでいたらしいが、先ほどサカタゾンビの群れに襲われて陥落したそうだ。
では、12人目の私は、いったい誰だと思う?」
「お前、みんなの動向を監視していたのか?どうやって!?」
「クロエに頼んで自立型ドローンを飛ばしてたのだ!それよりもほら、私は誰だと思う?」
「え、ドローン?そんなの気付かなかったぞ?そういう伏線みたいな描写も無かったのに、ずるいじゃないか!」
「五月蝿いよ!それより早くほら、私、誰だと思う!」
「えー誰?解んない!僕らPEOPLEは11人にしか分身出来なかった筈だ!12人目なんているはずがない!」
すると所長イスの男はさも可笑しそうに、くくくと声を立てて笑った。
「全て私の策略だ。私が全ての元凶だ。クロエに巨大化を唆したのも、サカタ化も、トモロウ君の謀反も、ヒュージラットも、サカタゾンビ菌を蔓延させたのも、全てこの私が裏で手を引いていたのだ。この12人目の私が……いいや!私こそ一人目だ!そして私こそ一人目の犠牲者なのだ!数えられずに葬られた一人目のPEOPLE、それこそがこのPEOPLE KING様なのだ!」
所長イスの男はくるりとイスを回転させ、その素顔を僕に晒した。「どうだ!この顔を見て思い出せるか!」

「いや、ちょっと解んない」
「解れよ!私だ!わたし!」
「PEOPLE KING様、みんな顔が一緒なので、ちょっと……」
「そ、そうだった、ぐぬぬ」
「もういいよこのくだり、早く終わろうよ、普通のブログに戻そうよ」
「ぐぬぬぬ、もうちょっと考えるフリとかしろよ!」
「PEOPLE様、そろそろ文字数が」
「そうだ早くしろ、どうせ最終回だぞ、さっさとしろ!」
「おのれPEOPLEめ!ならば教えてやろう!私は第一回目でお婆ちゃんが横断歩道を渡るときに助けてあげたつもりが変質者として逮捕され、身元重複により成り済ましの不法入国者として刑務所に入れられてしまった、最初の不幸なる分身だー!!」
「うわー、やめてよそういう読み返しが必要な設定。誰も覚えてないよ、てゆうかそんな薄いキャラを黒幕にされても困るし。なんか20世紀少年の黒幕くらいピンと来ないわぁ」
「なんて酷いこと言うんだお前!私が刑務所で完全に忘れられてた時にのうのうと、漫才やったり演劇したりダンスしたりで自分探ししてたお前らと立場を逆転させてやろうと必死に考えた私の計画を!ピンと来ないだとお!」
「コナンの黒幕がミツヒコだって言われたときの方がまだマシだわ」
「それはまだウワサだろうが!まだ別のやつが悪役かも知れないだろ!なんかほら、ブタゴリラみたいなやつと、あと女の子もいるだろ、なんとかちゃん!」
「PEOPLE様、それはアユミちゃんです。あと、ブタゴリラじゃなくてゲンタです。それと最新のネット記事では烏丸蓮耶というキャラクターが黒幕らしいと書かれていてます」
「誰だよそれ、知らねーよ!」
「知らねーよ!アガサ博士でいいよ!」
「PEOPLE様、そんなこと言ってコナン好きに怒られても知りませんよ?」
「コナン好きはもっと小松未歩とか聴くだろ、渡會将士聴かねえだろ」
「そうだ、ルーマニアモンテビデオとか聴くだろ」
「二人とも情報古いっすね、一番最近のは倉木麻衣さんが歌ってるみたいですよ。wikiによると」
「知るかよ!コナンから離れろよ!」
「そもそもお前がコナンネタ持ち出したのが悪いんだろうが!」

そうして僕らは小一時間ほどオチも無い話を続け、PEOPLE KINGはついにキレた。

「もういい!とにかく、お前は私以外の最後の一人だ!お前を殺して私は唯一のPEOPLEとなるのだ!」
PEOPLE KINGは机の引き出しから拳銃を取り出し、僕に向けた。「私を忘れたことを地獄で後悔しろ!」そして躊躇い無く引き金を引いた。

「ちょ、ちょまー!」

銃声が鳴り響き、床に鮮血が飛び散る。胸が熱い。撃ち抜かた。胸は熱いが、身体の末端からは急速に血の気が引いていくようだ。僕は膝から崩れ落ち、仰向けに倒れた。
マジか、撃たれた。死ぬ。マジでバッドエンドじゃんかよ、でもこれで普通のブログに戻れるのなら、それもいいか……いや、いいのか?……意識が薄れてゆくなかPEOPLE KINGの顔を見ると、彼も胸元を押さえて苦しんでいるのが見える。口から血を吐きながら、息も絶え絶えに何かを呟いている。
「そ、そんな、まさか、元々一人の人間だったから、誰か一人でも死んだら、みんな死ぬというのか!?」
そしてPEOPLE KINGも糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。相討ちということか?同じように、ゾンビ化した僕の分身達も、それぞれの場所で、時を同じくして死んでいこうとしているのだろうか?
ダメだ、もううまく考えることも出来ない、僕も、もうじき死ぬ……
ふと見上げると、僕の傍らに立ち、穏やかな笑顔で僕の顔を覗き込んでいるトモロウ君の顔が見える。

トモロウ君は言った。

「黒幕なんてバレたところで、まだどんでん返しなんていくらでも出来るんですよ、青山剛昌先生ならね。
大事なのは最後に勝つことです。それが獄中To Do Listです」

僕は、最後に無理矢理タイトルねじ込んだだけじゃん、と思い、

その後は何も考えることはなかった。

          

そして誰もいないくなった。

         

         

やぁ、僕はトモロウ。

このバトルロイヤルに最後に勝ち残った一人だ。

そして全て、無かったことにして、普通のブログに戻る。

終わりったら、終わり!