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2018/12/25
「獄中 To Do List」
モキュメンタリー日和⑫
やぁ、僕はPEOPLE
ようやくファイナル。今年の駄文、今年のうちに!
<前回までのPEOPLEは>
全ての分身を失いながら最後の黒幕を倒したPEOPLEだったが、街はサカタゾンビに埋め尽くされてしまった。
もうこの際バッドエンドだって構うものか!さぁ終わらせろ!
ゾンビから街を救うヒントを探す為に、僕はNetflixでウォーキングデッドをファーストシーズンから全部見直してみた。でも解ったことは特に無かった。あのドラマでは多分永久にゾンビが撲滅されることは無いだろう。そういうドラマなのだ。多分アメリカに火葬文化が根付くまで何シーズンでも続くだろう。
しかし希望は見えた。刑務所だ。刑務所ならばきっとウォーキングデッドの正解と同様に、生き残った人達の最後の砦に成りうるだろう。
僕は命からがら、なんとかかんとかリトルトーキョー刑務所までたどり着き、その門を叩いた。
「ごめんくださーい!誰かいたら開けてくださーい!」
しばらく門を叩いていると、通用口のドアが空いて、深々とフードを被り、ローブを身に纏った人物が出てきた。「待っていましたよ。必ず来ると思っていました」声色から男のようだ。聞き覚えのある声だ。
「もしや君は!」
「後にしましょう、さぁ、急いで中へ」
フードの男は僕を中へ通すとすぐに通用口を閉じた。
刑務所の中ではサカタゾンビから逃げ延びた人々が100名ほど、身を寄せあって暮らしていた。
みんな割り当てられた当番にしたがって定期的に外に出て必要な食料や家電を回収しているようで、刑務所の敷地内は意外にもバブリーな雰囲気だった。
子供は全員ニンテンドースイッチを持っていたし、VRモニターでゲームしている子供もいた。各グループには最新のMacBook、パワースチームオーブン、大容量冷蔵庫、全自動の洗濯乾燥機が割り当てられ、共同トイレは全て高性能ウォシュレット付き、洗面台にはイオン的なものが出るドライヤーが完備され、談話室には本格的な映画用プロジェクター、大浴場は24時間解放されていた。
サカタゾンビは人以外襲わないので近隣で家畜を放牧したり、農作物もこれから育て始めるみたいで食事にも事欠かないらしかった。すごく暮らしやすそうだった。
刑務所の統治者は元服役囚らしい。僕はフードの男に連れられて刑務所内を隅々まで案内された後、統治者の元に連れていかれた。
統治者の部屋は元刑務所長の部屋で、空調が抜群に快適で、なんかすごく良い柔軟剤みたいな匂いがした。統治者は僕に背を向けて、フっカフカそうな所長イスに座って窓の外を見ている。
「PEOPLE KING様、やつを連れてきました」
フードの男はそう言って、僕を無理矢理膝ま付かせた。
「PEOPLE KING様? なんだよそのダサい名前は?僕だったらもっと良い名前を考えるね。て言うかフード被ってる君、トモロウ君だろ?確かまだ服役している筈だし、最初に声を聞いたときにすぐ解ったぞ!そんで誰だよ、そこのイスに座ってるのは?どうせクロエだろ?あいつも刑務所送りになったはずだぞ?」僕がまくしたてると、所長イスの男が言った。
「彼女は護送される前に留置所でサカタゾンビの群れに襲われたよ。残念なことだ」
ひどく聞き覚えのある声だった。てゆうか僕の声だ。そんな筈はない、前回再登場したおこりんぼで全員の行方は解った筈だ。もう残っていない筈なのに。
「そんなはずがない、と思っているんだろう?」所長イスの男は僕の心を見透かすように言った。そして静かに、嬉々とした声で続ける。
「おこりんぼ、B、C、花男、初代サカタゾンビ、みんなサカタゾンビになった。そしてスコーン屋の二人も、ジGタンクの介護者も二日ほど前にサカタゾンビ化が確認された。
ヒュージラットに襲われたやつと、そこにいるトモロウ君に千年殺しされたやつが入院していた病院もバリケードを作ってなんとか凌いでいたらしいが、先ほどサカタゾンビの群れに襲われて陥落したそうだ。
では、12人目の私は、いったい誰だと思う?」
「お前、みんなの動向を監視していたのか?どうやって!?」
「クロエに頼んで自立型ドローンを飛ばしてたのだ!それよりもほら、私は誰だと思う?」
「え、ドローン?そんなの気付かなかったぞ?そういう伏線みたいな描写も無かったのに、ずるいじゃないか!」
「五月蝿いよ!それより早くほら、私、誰だと思う!」
「えー誰?解んない!僕らPEOPLEは11人にしか分身出来なかった筈だ!12人目なんているはずがない!」
すると所長イスの男はさも可笑しそうに、くくくと声を立てて笑った。
「全て私の策略だ。私が全ての元凶だ。クロエに巨大化を唆したのも、サカタ化も、トモロウ君の謀反も、ヒュージラットも、サカタゾンビ菌を蔓延させたのも、全てこの私が裏で手を引いていたのだ。この12人目の私が……いいや!私こそ一人目だ!そして私こそ一人目の犠牲者なのだ!数えられずに葬られた一人目のPEOPLE、それこそがこのPEOPLE KING様なのだ!」
所長イスの男はくるりとイスを回転させ、その素顔を僕に晒した。「どうだ!この顔を見て思い出せるか!」
「いや、ちょっと解んない」
「解れよ!私だ!わたし!」
「PEOPLE KING様、みんな顔が一緒なので、ちょっと……」
「そ、そうだった、ぐぬぬ」
「もういいよこのくだり、早く終わろうよ、普通のブログに戻そうよ」
「ぐぬぬぬ、もうちょっと考えるフリとかしろよ!」
「PEOPLE様、そろそろ文字数が」
「そうだ早くしろ、どうせ最終回だぞ、さっさとしろ!」
「おのれPEOPLEめ!ならば教えてやろう!私は第一回目でお婆ちゃんが横断歩道を渡るときに助けてあげたつもりが変質者として逮捕され、身元重複により成り済ましの不法入国者として刑務所に入れられてしまった、最初の不幸なる分身だー!!」
「うわー、やめてよそういう読み返しが必要な設定。誰も覚えてないよ、てゆうかそんな薄いキャラを黒幕にされても困るし。なんか20世紀少年の黒幕くらいピンと来ないわぁ」
「なんて酷いこと言うんだお前!私が刑務所で完全に忘れられてた時にのうのうと、漫才やったり演劇したりダンスしたりで自分探ししてたお前らと立場を逆転させてやろうと必死に考えた私の計画を!ピンと来ないだとお!」
「コナンの黒幕がミツヒコだって言われたときの方がまだマシだわ」
「それはまだウワサだろうが!まだ別のやつが悪役かも知れないだろ!なんかほら、ブタゴリラみたいなやつと、あと女の子もいるだろ、なんとかちゃん!」
「PEOPLE様、それはアユミちゃんです。あと、ブタゴリラじゃなくてゲンタです。それと最新のネット記事では烏丸蓮耶というキャラクターが黒幕らしいと書かれていてます」
「誰だよそれ、知らねーよ!」
「知らねーよ!アガサ博士でいいよ!」
「PEOPLE様、そんなこと言ってコナン好きに怒られても知りませんよ?」
「コナン好きはもっと小松未歩とか聴くだろ、渡會将士聴かねえだろ」
「そうだ、ルーマニアモンテビデオとか聴くだろ」
「二人とも情報古いっすね、一番最近のは倉木麻衣さんが歌ってるみたいですよ。wikiによると」
「知るかよ!コナンから離れろよ!」
「そもそもお前がコナンネタ持ち出したのが悪いんだろうが!」
そうして僕らは小一時間ほどオチも無い話を続け、PEOPLE KINGはついにキレた。
「もういい!とにかく、お前は私以外の最後の一人だ!お前を殺して私は唯一のPEOPLEとなるのだ!」
PEOPLE KINGは机の引き出しから拳銃を取り出し、僕に向けた。「私を忘れたことを地獄で後悔しろ!」そして躊躇い無く引き金を引いた。
「ちょ、ちょまー!」
銃声が鳴り響き、床に鮮血が飛び散る。胸が熱い。撃ち抜かた。胸は熱いが、身体の末端からは急速に血の気が引いていくようだ。僕は膝から崩れ落ち、仰向けに倒れた。
マジか、撃たれた。死ぬ。マジでバッドエンドじゃんかよ、でもこれで普通のブログに戻れるのなら、それもいいか……いや、いいのか?……意識が薄れてゆくなかPEOPLE KINGの顔を見ると、彼も胸元を押さえて苦しんでいるのが見える。口から血を吐きながら、息も絶え絶えに何かを呟いている。
「そ、そんな、まさか、元々一人の人間だったから、誰か一人でも死んだら、みんな死ぬというのか!?」
そしてPEOPLE KINGも糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。相討ちということか?同じように、ゾンビ化した僕の分身達も、それぞれの場所で、時を同じくして死んでいこうとしているのだろうか?
ダメだ、もううまく考えることも出来ない、僕も、もうじき死ぬ……
ふと見上げると、僕の傍らに立ち、穏やかな笑顔で僕の顔を覗き込んでいるトモロウ君の顔が見える。
トモロウ君は言った。
「黒幕なんてバレたところで、まだどんでん返しなんていくらでも出来るんですよ、青山剛昌先生ならね。
大事なのは最後に勝つことです。それが獄中To Do Listです」
僕は、最後に無理矢理タイトルねじ込んだだけじゃん、と思い、
その後は何も考えることはなかった。
そして誰もいないくなった。
やぁ、僕はトモロウ。
このバトルロイヤルに最後に勝ち残った一人だ。
そして全て、無かったことにして、普通のブログに戻る。
終わりったら、終わり!
2018/12/14
「Dance with Walking Dead」
モキュメンタリー日和⑪
やぁ、僕はPEOPLE
いよいよセミファイナルだ!
<前回までのPEOPLEは>
暗黒卿クロエは見事PEOPLEのお手柄で逮捕されたが、まだその裏には彼女をそそのかして様々な巨大化事件を引き起こした黒幕がいるらしい!しかもクロエはその黒幕こそ僕だと言った!なんやかんやでありがちな展開に落ち着きつつあるけど果たしてあと二話で終わるのか?いいんだよ、オチなんて無くたって!はやく普通のブログに戻りたぁ~い!
僕はクロエの言ったことが気になって、11人の分身全員の行方を確認してみた。
まず、今ここにいる分身は3人。とりあえず分身A、B、Cとしておこう。
そして今ここにいない8人の分身うち、前々回のラストでネズミに噛まれた分身と、 トモロウ君に千年殺しでケツの穴を貫かれて下半身付随になった分身の二人は仲良く入院中だ。
スコーン屋の分身2人は店の経営に大忙しで、悪事を企む暇など無い。
ジGタンクと共に山へ芝刈りに行った分身とはなんとか連絡がついて、今はジGと仲良く川で洗濯中だそうだ。
それからそうだ、トモロウ君の策略でサカタ化した分身がいた。あいつはラボの地下室に閉じ込めている。
えっとこれで……6人か? 残り2人は……あ、トモロウ君に虐められてラボのトイレに引き籠ったまま出て来なくなってしまった分身が1人いた!(凄いなトモロウ君、結局僕の分身を3人も再起不能にしたのか)
で、残りの1人は……誰だっけか?……いついなくなったんだっけ!? いや、そんなこと覚えてねえよ、そんなんわざわざ計算して書いてねえよ、知るかよ!
「ねぇ、ちょま」突然分身Bが青ざめた顔をして言った。「ラボって、ジGタンクにやられて、倒壊したよね?」
「倒壊したけど……それがなに?」
「地下室に閉じ込められてたサカタ化した分身も、トイレに引き籠ってる分身も、どっちもラボにいたってことだよね?あいつら今、どこにいんの?」
ぞっとして、僕らは急いでラボ倒壊跡地へ向かったが、悪い予感は的中した。
サカタ化した分身を閉じ込めていた地下室の扉は壊れて開きっぱなし。もちろん中にサカタはいない。ラボ倒壊の時に逃げ出したのだ。
せめてトイレの引き籠りだけでも救出せねばと瓦礫の山を掻き分けていると、突然分身Cが瓦礫の中で「ぎゃ!」と悲鳴を上げた。
「どした!」「どしたどした!」
悲鳴を上げた分身Cを見ると、Cの後ろにはAでもBでもないもう1人の“僕”が立っていて、そいつはCの肩にガッツリと歯を立てて噛みついていた。
「なんだ!こいつは?行方不明の残りの1人か!?」「いや違う、よく見ろ、あいつなぜかズボンを下ろしたままだぞ!きっとトイレに引き籠ってたやつだ!てゆうかトイレに引き籠ってたやつって呼びづれえな!トイレの花男でいいや、花男!」
花男は死んだ魚のような虚ろな目をして、ダラダラとヨダレを垂らしながらCの肩に噛みついている。「いでー!いだだだだ!」Cは後ろ足で花男を蹴って必死にもがいているが、花男は微動だにしない。
「おいやめろ花男!落ち着くんだ!お前がトイレに入ってる間に悪口言ったのはCじゃない!もちろん俺達でもない!あれは全部トモロウ君の仕業なんだ!Cを離してやれ花男!」
僕らがいくら叫んでも花男は全く反応を示さない。そうしているうちにCの衣服がみるみる真っ赤に染まっていく。花男の歯が肩の肉に食い込み、血が滲んでいるのだ。
「おい、花男のやつ、普通じゃない、おかしい。あれは何かの病気なのか?」
花男の表情にはまるで生気がなく、しかし顎だけは頑なにCの肩に食らいつき、万力のような力を込めて肉を噛み千切ろうとしている。
「おい、なんか、Cのヤツもヤバそうだぞ」
Cは体をびくびくと痙攣させていた。もう痛みによる悲鳴もあげず、その目からは急速に光が失われていき、口からはボタボタとヨダレが垂れ始めた。そこで花男は急にCを噛むことをやめた。
「おい、C、おま、大丈夫か?」
Cは呼び掛けには応えなかった。痙攣は徐々におさまっていく。
「おい、C、早くこっちに来い、今のうちに!」
「手当てしないと死ぬぞ!早く来い!」
僕らが叫ぶと、Cは死んだ魚のような目で僕らを見つめた。花男も僕らを見つめている。二人はふらふらとした足取りで近寄って来る。なにかをぶつぶつと呟きながら。
「……あ、よいとせのこらせのよいとせのこらせ… あ、よいとせのこらせのよいとせのこらせ……」
「サカタ化だ!Cも花男も、サカタ化している!」
「そんなバカな!サカタ化はサブリミナル効果がないと発症しない筈なのに!」
「おそらく閉じ込めていている間にアフォノサ型血液が進化して、感染力を持ったんだ!今あいつらに噛まれると、サカタ化するぞ!」
「それってつまりサカタゾンビってことか!」
僕らは必死にその場を逃げ出した。幸いサカタゾンビは手足をくねらせての横歩きしか出来ないので余裕で逃げ切ることができた。
そのまま急いで警察署へ駆け込んだが、こちらも既にサカタゾンビに襲撃された後らしかく、アホのサカタのテーマが爆音で流れる中がサカタゾンビ達が躍り狂っていた。
街も同様、道行く人々は皆サカタゾンビ化している。
誰も彼も、クロエもアウトレイジも探偵ナイトサあーフの面々も、みんなゾンビになってしまった。
リトルトーキョーはあっという間に新喜劇版ウォーキングデッドと化したのだ。
「こんなに繁殖力が強いなんて、異常だ。誰かが意図的にサカタ菌をばら蒔いたとしか思えない」
「確かにその可能性はある。そして尺的に、そろそろ黒幕が出てくるころだぞ!」
「その通り!黒幕は私だー!」
ババーンと、ぞんざいな感じで黒幕が現れた。
「やっぱ俺か。そりゃぁな、この話の登場人物はもう俺しか残ってないからな」
「あれだろ、お前どうせ行方が解らなかった最後の一人だろ?」
「オイ!もうちょっと丁寧に扱えよ!俺だぞ!?」
「あーごめん、いついなくなった俺だっけ?」
「Ride on Tideの回だよ!怒って居なくなっちゃった、No.11、怒りんぼだよ!」
「あぁー、そういう設定あったね。その後全然使ってないけどね、そのキャラ分け」
「な、俺ら今や、AとBだもんな」
「そういうところほんと、ちゃんとしろよ!」
「おおー、怒ってる」
「ちゃんとキャラ守ってる、偉い」
「いい加減にしろよお前ら!会話だけじゃなくてちゃんと容姿の描写とか書けよ!」
「そんな面倒くさいこと出来るか!会話文で構成するのが一番楽なんだよ!」
「そうだそうだ!そしてもう流れ的に一人減るタイミングだ!黒幕の怒りんぼ、俺はお前と心中してやるぜー、わあー」
「な、ななな、なにぃー」
「あぁ、やめろBー」
「それー」
「あーれー」
「Bぃーーっ、なぁ、なんてことだー、ああー、Bが黒幕の怒りんぼに体当たりしてサカタゾンビ達の群れに飛び込んでしまったー、うわー、なんてことだー、二人ともゾンビになってしまったー、ついにひとりぼっちになってしまったー、うわーん、ががーん」
僕はPEOPLE。
棒読みでお楽しみください。
ついにひとりぼっちだ。
次回のPEOPLEはいよいよ最終回!
「獄中To Do List」
さあ、早く普通のブログに戻ろう!
2018/12/07
「必殺!PREYボール!」
モキュメンタリー日和⑩
やぁ、僕はPEOPLE。
3人揃えば文殊の知恵!
<前回までのPEOPLEは>
暗黒卿クロエが放った巨大ネズミの群れに襲われ、街はパニック状態!そう、今回はモンスターパニック映画的なあれ!もうそろそろ辛い!早く終わりたい!あと三話、頑張れ、やっつけろ、そう、いつだってやっつけだ!そんな感じで僕は、分身スーパーC級映画ヒーローPEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーで逃げ回っている。
あっという間に巨大ネズミに埋め尽くされ、街はチーズみたいにバリバリかじられて、ボロボロだ。
リトルトーキョー市警と消防隊がネズミ駆除に奔走しているが、巨大ネズミ達は文字通りねずみ算式に増え続けている。
街の存亡がかかったこの一大事に、警察と犬猿の仲だった探偵ナイトサあーフの面々や、僕らWATALABO(そういえばそういう設定だった)も技術協力という形で巨大ネズミ対策本部に駆り出され、ネズミ退治に頭を悩ませていた。
「やっぱりギガマウスで良いと思う」
「なんかPC機器みたいでパッとしないなぁ」
「じゃあメガマウス」
「やっぱりPC機器っぽいよ」
「ねぇ、メガマウスのマウスはネズミのmouse?口のmouth?」
「いいじゃんそこは、巨大ネズミなんだから口もデカいし。ダブルミーニング的な?」
「mouthの方のメガマウスだったら実際にいるよ」
「え、いんの?なにそれ」
「サメだよサメ、深海に住んでる超口デカいサメ。それがメガマウス」
「うわー良いじゃん!B級サメ映画に出てきそう。戦慄!人食いメガマウス!みたいな」
「残念、主食プランクトンなんだわ」
「うわー残念、人食えよ、サメなんだから」
「いや普通は人食わないからねサメって。海亀と間違えて人に噛みついてるだけだから」
「ウソ、サメって亀食うの?最悪。めっちゃ歯の隙間に甲羅とか挟まりそう」
「そこは案外お煎餅かじるみたいな食感かもよ?」
「いや絶対無理だわぁ、歯欠けちゃう。つか亀って旨いの?」
「スッポン旨いから亀も旨いんじゃね?」
「いやぁ~、ミドリガメとか絶対臭いっしょ」
「そう言えば昔なんかのバラエティーでミドリガメ食う、みたいなのやってなかったっけ?そんで芸人がお腹壊してさ」
「それだ!」
「なに?」
「ネズミに毒の餌を食べさせるんだよ。それで奴等を一網打尽にする!名付けてPREY(餌食)ボール作戦だ!」
「あのね、今そういう話してんじゃなくて、巨大ネズミの名前考えてんの。脱線すんのやめてくんない?」
「そうだそうだ、それに前回の予告で“必殺!PRAY(祈り)ボール”って書いちゃったのをさりげなくEに修正すんなよ、セコいぞ」
「しょうがないだろ、間違えちゃったんだから!」
「ちょっと、メタ発言止めてよ、只でさえ崩壊ギリギリなんだから」
「そうだぞ、何が楽しくてこんなもん毎週書いてると思ってんだ!」
「うるせえ!気がついたらなんか書いちゃってたんだよ!ほんの出来心だバカ野郎!」
「もういいから、わかったから、名前考えて、ネズミの名前!」
「じゃぁもうあれでいいや、メガサイズで、“かじる”の“bite”から…」
「やめろ、それはもうただのPC用語だろ、そんなオチで終われると思うなよ!」
「毎回大したオチもついてないよ!」
「え、オチなんて必要?そんなもの誰が求めてるの?」
巨大ネズミ対策会議は凄まじく荒れた。
しまいには僕を含むラボスタッフみんなで乱闘になり、警察の方々に仲裁して頂いた。
そして巨大ネズミ対策本部の看板はPREYボール作戦に書き換えられ、みんなの平和への祈りも込めて、という意味で横に“PRAY”も書き添えることで落ち着いた。
巨大ネズミの名称の方は警察所長の一存でヒュージラットに決まった。案外悪くないな、とみんな思った。
ヒュージラット退治用のPREYボールはすぐさま完成し、街中にバラまかれ、凄まじい効果を発揮した。
中に毒ではなく接着剤入りキャラメルを仕込み、それがヒュージラット達の歯に詰まりまくって、酷い虫歯になり、ものを食べれなくなって餓死したのだ。
こうして街は救われたが、ヒュージラットの破壊の爪痕は深刻だった。
僕らは三人で積み上げられた瓦礫の上に立ち、街を見渡した。酷い有り様だ。ネズミの死体とフンだらけ。家を失った人々が公園に集まって、腐臭に鼻をつまみ、毛布にくるまって炊き出しの列に並んでいる。
公園の隅では野球をしている子供達も見えた。彼らはまだこの災害を実感出来ていないのかもしれない。でもその光景はひとつの救いのように思えた。
クロエ、君は一体何を求めてこんな酷いことをしたんだ。君はコナンくんを小さくした薬を開発して年金問題を解決したいんじゃなかったのか?
「私、黒の組織にはなれなかったわ」
不意に声がして振り替えると、そこにクロエが立っていた。
「おま、どこいってた!何てことをしてくれたんだ!街がめちゃくちゃじゃないか!」僕は突然のことに面食らいながらも、クロエを捕まえるべく三人で素早く彼女を取り囲んだ。「なぜこんなことをしたんだ!」
クロエは崩壊した街をゆっくりと見渡し、それからうなだれて、小さな声で言った。
「コナンくんを小さくした薬は作れなかった。でも逆に、いろんなものを大きくすれば相対的に私達が小さくなるよと教えてもらって、その相対的って響きが相対性理論みたいで素敵だなって思って、夢中になって実験を繰り返したの……でも、気付いたわ……」
「……コナンくんは小さくなったんじゃなくて、若返ったんだよ……」
僕がそう言うと、クロエはペロッと舌を出して自分の頭をコツンと叩いた。「テヘ、間違えちった」
「間違えちったじゃねぇよ!」「バカお前、バカ!」「信じらんねぇ、マジかこいつ!テヘペロで誤魔化せる事態じゃねえだろが!」
「ねぇ、数年前まで黒幕はアガサ博士だって言われたてたのに、今ではミツヒコ黒幕説が最有力なんですって、知ってた?」
「知らねぇよ!つかお前コナンあんまり知らねえのかよ!」「コナン読めよ!」「そうだコナンちゃんと読めよ!俺も読んでないけど!」
「私どっちかって言うと未来少年コナンの方が好きかな」
「うるせえ、そのネタ三十代でも通じるか怪しいぞ!」「青山剛昌先生に謝れ!」「あと宮崎駿監督にも謝れ!」
僕らは三人がかりでクロエをディスりまくり、そのうち段々テンションが上がってしまってラップにのせて更にディスりまくったが、クロエは「すごい!韻の踏みかたがタイトだわ!」と言って大喜びし、ヒューマンビートボックスを始めたので、僕らはそれ以上ディスるのを諦めた。
「ところでクロエ、君に相対的にどうのこうのと言って巨大化を勧めたのは誰だ?」
「え?」クロエは目を丸くした。「あなたじゃないの」
「なんだって?」
「あなたよ、あなたが言ったのよ」
僕はPEOPLE!
分身スーパーメタ発言者さ!
残り3人!の、筈だが…
次回のPEOPLEは
「Dance with Walking Dead」
お楽しみに!
2018/11/30
「探偵ナイトサあーフ」
モキュメンタリー日和⑨
「探偵ナイトサあーフ」
やぁ、僕はPEOPLE。
4人いるけど年金は一人前さ!
<前回までのPEOPLEは>
僕の元フィアンセの暗黒卿クロエは巨大なジGタンクを送り込んでラボを粉々に破壊してしまった。これは彼女からの宣戦布告だ。僕は、分身スーパー被災者PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーで彼女の行方を追っている。
ジGタンクがド派手にラボをブッ壊したせいで夜が明ける頃にはリトルトーキョー中が昨夜の倒壊事件を知ることとなり、当然警察とアウトレイジがやって来た。
トモロウ君が殺人未遂でムショ入りしている上に元うちの職員がラボ倒壊の真犯人というのはあまりにも印象が悪いので、クロエについてはシラを切り通したが、彼らはまだかなり僕を疑っているみたいだ。
おおっぴらにクロエ捜索をすることは難しくなった。
そこで僕は「探偵ナイトサあーフ」に手紙を出すことにした。
探偵ナイトサあーフはリトルトーキョーの大人気TV番組で、人気タレントのタム・ケン、タム・ヒロ、タケ・ヤマ、ヤス・イシなどの個性的な面々が探偵に扮して、人探し、噂の究明、苦手の克服など幅広い相談を請け負ってくれる。依頼の解決率はなんと99パーセント。
局長のリューチャロ・カミオカ氏は己の信じた正義を貫く傑物で、過去に色々と行き過ぎた調査をしたせいで警察とは犬猿の仲だ。「その権力に屈しない姿勢が逆にウケる」などと言われて結構人気があり、警察に頼むべき依頼をあえてナイトサあーフに持ち込む視聴者もいるほどだ。
警察に知られずにクロエを探すには打って付けの番組、というわけだ。
僕は手紙をしたためた。
〈失踪した元フィアンセを探しています。彼女はクワガタとかお爺ちゃんとかを大きくしちゃうタイプのマッドサイエンティストです。探偵さん、どうか彼女を探し出してもらえないでしょうか〉
探偵ナイトサあーフはすぐに返事をくれた。
〈PEOPLE様、ご依頼ありがとうございます。PEOPLE様から頂いたご依頼について是非確認させて頂きたいことがございます。どうぞ当探偵事務所へお越し下さい〉
ナイトサあーフは毎週欠かさず見ているが、手紙を送ったのは初めてなのでこれがどういう意味なのか解らない。
困惑しながら指定された場所、リトルトーキョーのミナミ区、アサヒホーソー本社ビルへ出向くと、なんと番組の顔役でもあるリューチャロ・カミオカ氏が直接出迎えてくれた。彼は僕を見るなり近寄ってきて硬い握手を交わし、ミナミ弁で早口に捲し立てた。
「おおきにおおきに、ホンマよお来てくれたなぁ!あんたあれやろ、分身パンツマンやろ?
うちの番組にアンタの調査依頼が来ててん。複数人おるけど全員全く同じ顔で、全員パンイチの集団がよお目撃されとるゆうて。
ほんで調査進めるうちにアンタやってことはだいたい判明して、ほな本人確認しよか思てたらアンタから依頼が来たわけやが……自分ホンマええときに来たで」
そしてリューチェル氏はニヤリと笑った。
「実はな、なんや今、リトルトーキョー各地で色々なもんがごっつ大きなってんねん。
初めは普通の依頼やってん。“うちのチワワが大型犬ぐらいでっかなってホンマ怖いです、なんの病気でしょうか?”って相談やってんけどな、調査行ってみたらホンマに大型犬くらいデカいチワワがおんねん。ごっつキモかったで、目ん玉むちゃくちゃデカいねん。テニスボールぐらいあんねん。あれ見た後だとうちのハスキー犬めっちゃ目ん玉ちっちゃー!思たわ。バランスキモいねん。
ほんで、これオモロイやんかっちゅうことで先々週、放送してんけど、ほしたらそれ見て“うちで飼ってる子猫も急にトラぐらいでっかなって困ってますぅー”ゆう視聴者が出てきてな、これもホンマデカかったで。
遠くから見たらまあ子猫そのまんまやし、可愛らしねんけど、やっぱ近くで見るとアカンわ。目ん玉めっちゃデカいねん。あと足めっちゃ短いし頭むっちゃデカいねん。バランスキモいねん。そんでそいつカラス捕まえんねんで?スズメちゃうで?依頼主の家の庭、真っ黒い羽だらけで、グロかったわぁ。これはさすがにテレビに映せへんやろゆうことで困っとったら…
ついにこないだ、クマが出るゆうて調べにいってみたら、これがなんとネズミやってん。
軽自動車サイズのネズミやで?ヤバイやろ?多分ドブネズミなんやろな、めっちゃくっさいねん。ほんでソイツな、ネズミのくせに野良犬捕まえて食べててんねんで。あれはもうただのグロや。なによりキモいのがめっちゃ目ん玉デカいねん。あれに比べたら本物のクマ目ん玉めっちゃちっちゃー思うわ、ビビるで?バランスキモいねん。
ほんでピンと来たわ。こないだイチゴおっきなったやろ?あれと同じことがこの街のいろんなとこで起きてんねん。そこへあんたの依頼や。もう解るやろ」
僕もすぐ合点が行った。「僕の元フィアンセの仕業ですね…」
そして僕はリューチェル氏と番組スタッフに全てを打ち明け、我々は以下のような結論に至った。
クロエは過去にクワガタを巨大化した技術を使ってイチゴを巨大化した。
続いて実験対象を昆虫や植物から哺乳類に変えたが、哺乳類の巨大化は難しかったのか最初はチワワを大型犬サイズまで巨大化することしか出来なかった。
しかし次は子猫をトラサイズまで巨大化することに成功。そうして巨大化率を徐々に上げながら先週はネズミを軽自動車サイズに巨大化。
そしてその集大成が昨夜の巨大おじいちゃん、ジGタンクだ。
他にも我々が知らないだけで、既に様々な動物が巨大化されてしまった可能性もある。
「あんたの元フィアンセ、ゴリラ巨大化してへんやろな?ヤバいんちゃう?著作権的に。ハリウッド的に」
「それゆうたらトカゲとかイグアナも巨大化したらアカンやん、スピルバーグ的に」
「東宝にもゴジラがおるで?」
「その前におじいちゃんおっきくした時点で円谷的にはアウトやろ」
「そこはバンダイなんちゃうん?おじいちゃん半分キャタピラやってんで?ジGタンクてもう完全にガ◯タンクやん、アカンやん、バンダイに怒る権利あるわそれ」
「それゆうたらそもそも大仏さんの著作権とかどうなん?ウルトラマンて大仏さんのパクりやん?どっちもおっきいおっさんやん。そこんとこ大仏さんずっと怒ってるで」
「大仏さんの著作権はもう期限切れやろ。奈良、鎌倉時代やで?それやったらオジンガーも仲間に入れたってや」
リューチャロ氏と全探偵、そして全スタッフが真剣に意見を交わしあった。白熱する会議の中、僕はふと気になったことを聞いてみた。
「すいません、そう言えば、巨大ネズミはどうなったんですか?捕獲したんですか?」
「いや、捕獲依頼ではなかったから、逃がしてんけど。てゆうか逃げられたわ」
「え、やばくないですか?」
「だってキモいやろ、目ん玉めっちゃデカいねんで?バランスボールくらいあんねんで?」
「ネズミってたしか、繁殖力すごく高いんですよね?ジョジョの4部で言ってましたけど」
「いやいや、一匹だけおっきなってもしゃーないやろ。つがいやったらまだしも」
「あ、なるほど!言われてみればそうですね!」
「そんなん言うてる暇があったらアンタも、巨大化したら困るものなんかあるやろ、出しいや」
そこから我々は行き着くところまでマニアックな大喜利を続け、てっぺんを回ったところでリューチャロ氏が「ちょっとマニアック過ぎて放送には使えんな、解散」と言い放ち、僕らは解散した。
僕ら4人(PEOPLE)は少し寒くなり始めた秋の夜風の中をとぼとぼと歩いて帰路についた。
ミナミに来たのはずいぶん久しぶりだった。ここへ最後に来たのは、まだクロエに出会ったばかりの頃だった。この路地をよく通ったのを覚えている。サラリーマンや学生でガヤガヤとしていて、そうそう、ビールのポスターの女の子、あの頃から張り替えられていなくてボロボロだけど、あのときのままだ。
当時のクロエはたしかこの辺に住んでいるのよと話してたっけ。
治安が良いとは言えないが、一度好きになるとなかなか離れられない、そんな街だ。「二度“ジ”ケ禁止」の張り紙、豹柄のトップスにゼブラタイツのおばはん、そうそう、寒くなるとあの角の自動販売機と自動販売機の間に入って暖をとっているおっちゃんが居たっけなぁ。
…おや?今日もあのおっちゃんが挟まってるみたいだぞ? さっきの会議で余ったワンカップでもプレゼントしてあげようかな…
そう思って自販機の隙間へワンカップを差し出すと、不意に手首をガブリと噛まれた。黒い、臭い、熊のように巨大な、ネズミに。
「でたーーーーー!!!ぎゃぁーーーーー!!!」
噛まれた分身は卒倒し、残り三人は心底縮み上がってこの世のものとも思えぬ叫び声を上げた。その声に驚いたのか、ネズミは自販機の隙間から飛び出し、大通りへ飛び出していく。するとそこかしこの影の中から、巨大な影が続々と続いて飛び出して、ネズミの跡をついていく。そして大通りからは次々に人々の悲鳴が響いてきた。
ミナミのネオンの中を駆け抜けていくネズミは、1、2、3、4、5…
ものすごくいっぱいいる。
僕はPEOPLE!
残り3人!
分身スーパー投稿者さ!
次回のPEOPLEは
「必殺!PRAYボール!」
お楽しみに!
2018/11/16
「暗黒卿クロエ」
モキュメンタリー日和⑧
「暗黒卿クロエ」
やぁ、僕はPEOPLE。
5人いる。分身スーパー探偵さ。
<前回までのPEOPLEは>
なんと僕を暗殺しようとしていたのは助手のトモロウ君だった!しかも黒幕は僕の元フィアンセのクロエ!だから僕は、身体は大人、頭脳は子供、分身スーパー探偵PEOPLEとしてここ、アメリカ西海岸の小さな街、リトルトーキョーで黒の組織と戦っている。
思うんだけどさ、名探偵コナンって読者には絶対に犯人解んないよね。謎解き中に「それ知らんがな」って情報が平気で出て来るし。金田一少年と違って、謎解きのヒントを全て開示しないってゆうかさ。それに犯人がシルエットだけの時と謎解き後ではあからさまに体型違ってたりするし。あと多分あの世界では既に1000人ぐらい死んでるわけだろ?冷静に考えてヤバイよな、倫理観狂ってる。コナン君て殺人事件製造マシーンみたいなやつだよ。
僕がそんなことをボヤいていると、クロエはこう言った。
「そこが良いのよ。読者はコナン君と共に謎解きを楽しみたいのではなくて、右から左へ流れていく定番のカタルシスを眺めていたいだけなのよ」もう5年も前のことだ。頭の良い女性だった。
「あたしね、コナン君を小さくした薬を作るのが夢なの。それを日本中にバラ蒔いて年金問題を解決したいの」そして少し変わっていた。
彼女は科学者としても非常に優秀で、人体にも食品にも全く害が無く、かつ非常に強力な農薬を開発してノーベル賞は確実と言われていたが、実験過程で8種類の昆虫と3種類の菌類を絶滅させていたことが発覚して取り消しになった。一途と言うか、加減が出来ないというか、非常に極端なタイプなのだ。
歩けない老人に車イスをプレゼントする筈が、いつの間にか足をブッた切ってキャタピラに付け替えてしまったこともある。彼女の祖父の足を、だ。
スーパーで見た大クワガタが名前ほど大きくないのを不憫に感じて、遺伝子をいじくって人間くらいデカくしてしまったこともある。うん、まぁとにかくマッドなサイエンティストだ。
彼女なら、何かに思い詰めて僕の暗殺を企む可能性は十分にあり得る。なんとかして身を守らなければ。
僕は研究所の所員達とクロエ対策会議を開いた。
そしてまずはクロエという名前がなんとも危機感が薄いので、より凶悪な名前に改名して危機感を煽ることにした。ヴォルデモートとかダースモールみたいなおぞましい名前が沢山出たが、5時間に及ぶ会議の末に決まったのは「暗黒卿クロエ」だった。
これは“恐ろしい雰囲気の言葉とあまり怖くなさそうな言葉を並べると逆に怖い感じになる理論”を使ったネーミングだ。例えば「人食いチワワ」とか「切り裂き団地妻」とか。高レベルな使用法としては「よく指を切るシェフの気まぐれメニュー」とか「殺人おばあちゃんのぽたぽた焼き」などもある。みんなも暇でしょうが無いときに試してみてほしい。
そこで今日の会議を切り上げ、みんなで帰り支度をしていると、突然、激しい振動と轟音に襲われ、ラボの壁が爆散した。
僕はその衝撃で一瞬気を失ったようだが、分身達に起こされて辺りを見渡すと阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
ラボの壁がゴジラにぶち破られたみたいに半壊し、スタッフ達は悲鳴をあげて逃げ惑い、飛び散る破片で身体を打った者や、血を流すものもいた。
そしてもくもくと上がる土煙の中に、巨大な影をみた。おじいちゃんだ。おっきいおじいちゃんがいる。下半身がキャタピラになってる、バカでかいおじいちゃんがいる。
僕はすぐさまピント来て「ジGタンク」という名前を思い付いた。「ちょっとみんな、すごく良い名前思い付いた!このでっかいおじいちゃんの名前!ねぇちょっと聞いてよ!」しかし研究所のみんなは逃げるのに必死で全然話を聞いてくれない。ジGタンクは凄まじい破壊力でどんどんラボを破壊していく。
「暗黒卿クロエの差し向けた刺客だ。あのおじいちゃん、よく見たら完全にクロエのおじいちゃんだぞ!」「あいつめ、いよいよおじいちゃんをでっかくしちまいやがった!」
「何か対抗できる武器はないのか!?合体して巨大ロボになるような車とか!?」「そんなもんあるわけ無いだろ!」「いや、待て!」分身の一人が言った。「おっきくても、おじいちゃんはおじいちゃんだ。ちょっとボケちゃってるだけだ!」
その声に呼応するかのようにジGタンクが叫ぶ。「メシハマダカイナァーーー!」
「ここは俺に任せろ!」分身はそう言うとジGタンクの肩によじ登っていって、耳元で囁いた。
「ご飯さっき食べましたよ、もう遅いから寝ましょうねー」するとジGタンクはピタリと静かになった。その肩の上で分身が叫ぶ。「俺はこのまま、このおじいちゃんのことをずっと、24時間介護する!みんな、後はまかせたぜ!」
そしてジGタンクと分身は山へ芝刈りに出かけ、戻らなかった。
クロエはいつも言っていた。
「年金払いたくない。少子化のこの時代に、絶対に私が受け取れる年金なんてない。無いに決まってる。年金払いたくなぁーいい!!」
その言葉を思い出しながら僕はラボのみんなと、倒壊したラボを見つめていた。
全てを粉々に破壊して消えていったあのジGタンクは、現代日本が産み出した嘆きの象徴ではないだろうか。そして、抗うのではなく、何か別の解決策を見つけなければいけないのだろう。
そして僕はまだ何も知らない。クロエ、お前何考えてンだよ、ラボブッ壊しちゃって……まじで困るわぁ。
そして年金、払っているかいクロエ?
僕はPEOPLE。
残り4人。
年金は一人分しか払ってない。
次回のPEOPLEは
「探偵ナイトサあーフ」
お楽しみに!
2018/11/09
「友郎青年」
モキュメンタリー日和⑦
やぁ、僕はPEOPLE。
7人いる。命を狙われている。
<前回までのPEOPLEは>
誰かが僕を暗殺しようとして、
何者かに狙われているかもしれないと判明した途端、
夜間はもちろん単独での外出を避けていたが、
僕の能力は対暗殺向きの能力だと思っていたけど、正直、僕の分身はまだ一人も死んだことが無い。もしかしたら分身の一人が殺されたら他の分身も一斉に死んでしまう可能性だってある。そう考えたら奇襲が怖くて一歩も外に出れなかった。しかし犯人の目的が僕の殺害なら、千年殺しとかじゃなくもっと致死率の高い鋭利な何かで僕の肛門をズドンした筈だ。現状、それをしていないということは「僕を生かしたまま再起不能にすること」が犯人の目的なのだ。
やはり動機は怨恨だろうか?
もしかしたら僕が過去に行った実験でドカンしてしまった誰かが半身不
「もしかしたら、ワタラボの実験に巻き込まれてカエルに変身してしまった人物が、その跳躍力で千年殺しを放ってあなたの分身の肛門を破壊したのかもしれません!いずれにせよ分身達の肛門はまだ狙われる可能性があります!」助手のトモロウ君はそう言った。イチゴの件を思い返すと全ての可能性があり得る気がして、僕はガタガタ震えながら夜鍋して分身6人のコスチューム(ブリーフ)の尻に鉄板を縫い付けた。
そうして僕らは鉄のパンツを履き、昼も夜も
ブリーフの鉄部分が思いの外冷たくて、お腹が冷えてしまったのだ。分身全員でトイレに駆け込んだが、
一人だけ、仕方なく別フロアの男子トイレに入った分身が、ヤラれた。
彼がトイレの個室に入っている間、犯人はこの世のものとも思えぬ酷い罵声を浴びせ続けた。
「うわ、だれかウンコしてるー!」「超くさーい!」「
そんな、小学生だったら確実に不登校になりそうな呪いの呪文を放課後まで浴び続け、分身は心を病み、もう二度とトイレから出られない身体になってしまった。
なんという卑劣な手をつかう犯人だろうか。僕は怒りに震えた。こいつは絶対に、なんとしても捕まえてやる!
そう決意すると、僕はさっそくワタラボの全職員をロビーに集めて、言い放った。「犯人はこの中にいる!」
お決まりな感じでラボのスタッフ達はワイワイガヤガヤしたが、僕は続けた。
「まず、
そして我が家のHulu登録をしてくれて、サカタ化のサブリミナルを仕掛けた
さらに暗殺行為をほのめかし、
それが犯人だ! そう、トモロウ君、君だ!」ドゥキャァァーーンヌ!!
トモロウ君はバタバタと狼狽えながら反論した。「
僕は引き続きトモロウ青年に向かってズドドドーンしながら言った。「ふっふっふ、物的証拠なんて、なくてもいいんだよ。
「うわぁーっ!」トモロウ青年は頭を抱え、ガックリと膝をついた。「そ、そうです、僕が、
「ほんの少しだけ、ムショで臭い飯食って来いよ。
しかしトモロウボーイの反応は不可解だった。クックッと肩で笑い、俯いた口元にも不適な笑みを浮かべている。
「僕はあのお方に頼まれてやっただけだ。お前はまだ、
な、なんだとぉぉぉ!? トモロウを操っていた黒幕とは、一体誰なんだ!? 今んとこ他の登場人物といったらアウトレイジとアレしかいないが……一体誰なんだ!? 誰が黒幕なんだぁぁぁぁぁ!!!
僕は「PEOPLE」
5人いる。
分身スーパー探偵だ。
次回のPEOPLEは
「黒幕卿クロエ」
お楽しみに!
